立ちはだかる流行語––『辞書』は万能ならず––
- 弓長金参
- 2023年5月13日
- 読了時間: 2分
更新日:2024年4月27日
“簡単なことばほど翻訳が難しい”。翻訳アルアルの一つです。
難しい専門用語は一見難度が高そうですが、訳すのは簡単です。
専門用語は対応する訳語が多いからです。(これを定訳(ていやく)と言います)
また、それらの原稿は文体もしっかりしたものが多く、専門用語さえ押さえれば意外と理解し易いのです。

反対に一見簡単そうで難度が高いものがあります。
代表はマンガです。

以前台湾のマンガ翻訳をしたとき、セリフに「辶!」とありました。
中国語でも「辶(しんにょう)」は「辶」です。単なる部首で「辶」単体のことばはありません。「辶」は走る、歩くなど進む状態を表わす部首です。
それを踏まえ、“Go”の意味で使う場合があります。若者を中心にブログなどで使う流行語の類です。

マンガは若者を読者ターゲットにし、流行語やわざと言い換えた表現が多く、難度が高くなります。
内容自体はすごく簡単でニュアンスはすぐに分かりますが、いざ翻訳するとことばが浮かびません。正確な意味が分からないからです。
同様にネット用語も難敵です。
現在、中国で「C位」ということばが流行っています。

A、B、C……だから“三番手”や“三流”と想像しがちですが、違います。
Carry(けん引する)やCenter(中心)の“C”です。皆を引っ張る重要人物を指し、それが広まったとのこと。
社会全体に広まり、すぐに調べがつく流行語は比較的楽ですが、市民権を得る前、特定の集団のみで使う流行語は、調査が難航し、翻訳者泣かせです。
“徹底的に、ただひたすらネットで調査をする”、これが唯一の解決方法です。
難解な専門用語オンパレードの専門性の高い原稿より、マンガやゲームなど流行に敏感な媒体の翻訳は、難度が高いと言えます。
反面、仕事をしながら一個人としてマンガ作品自体を楽しめる点は、役得に感じます。