他人の不幸は蜜の味?:変わり種妖怪の倀鬼(ちょうき)
- 弓長金参
- 4月29日
- 読了時間: 3分
中国には「倀鬼(ちょうき)」という変わり種の妖怪がいます。
虎に食い殺された人間がその虎の手下になり、自分と同じように虎に食い殺されるように仕向けます。つまり、自分と同じ悪運に遭わせようとする特殊な妖怪です。

近世中国の書物にも、倀鬼の具体的なエピソードを載せています。
虎に母親を食い殺された息子の夢枕に、その母親が現れました。
母親は、「山奥の樹下に黄金が埋めてある、その黄金で生活をすればよい」と息子に伝えます。
早速、息子はその山奥に入りますが、実は倀鬼に成り果てた母親が息子を虎に捧げるための罠だったのです。
息子は幸い神さまの助けで虎に食い殺されずに済み、母親も己の行動を悔い改め、自ら閻魔大王の下に自身の罪を告白し、地獄で服役するというオチになります。
このように良くも悪くも虎は漢民族にとって、インパクトの大きな動物でした。
中国語で虎は一般的に「老虎」と書きます。
馬は“馬”、牛は“牛”と、通常そのままです。
“老”の字には現在イメージする老いる以外に、知識や経験に加え、人徳などが高く指導する立場の人物という尊称の意味もあります。
江戸幕府の役職に「大老」「老中」があったように、“老”には人の上に立つ人物への尊称の意味がありました。
虎は、中国大陸の百獣の王として尊敬される動物だったのです。
“老”は、奇しくも英語の「Senior」と似たニュアンスを持っているといえます。
例外もあります。ネズミで、“鼠”ではなく同じく「老鼠」と書きます。
一見無力なネズミですが、繁殖力が飛び抜けて高く、群れを成して作物を荒らす鼠害(そがい)を考えると、かなりパワフルな動物です。
老虎にしろ老鼠にしろ、現代中国語では接頭辞、つまり習慣的な決まり文句として“老”を付けており、実質“老”自体の意味がなくなっています。
百獣の王、虎は恐ろしい動物ですが、さらに恐ろしいものがあるのでしょうか?
孔子のことばに「苛政(かせい)は虎よりも猛(たけ)し」とあります。
恐ろしい猛虎がいる土地の方が、無慈悲な政治、苛政のある土地よりもよいという意味です。人間が一番人間に害をなすのかもしれません。
ちなみに、日本にも倀鬼に類似する妖怪がいます。
「七人岬(しちにんみさき)」です。四国地方に伝わる妖怪、というより死霊で、海辺や川辺に七人一組で船に乗って現れるといいます。
だれかがその七人岬によって水中に引きずり込まれて溺れれば、七人岬のひとりが成仏できるそうです。
しかし、溺れさせられたその者が今度は七人岬のひとりに生まれ変わるため、常に七人一組をキープし続けるという特異性を持った死霊になります。
当然、妖怪は存在しません。
この世のすべての抽象的な事柄を、人間が自分のフィルターを通して説明付けに具現化したものが「妖怪」です。
自分が不幸な目に遭えば、だれかを同じ不幸な目に遭わせたい。人類普遍のエゴを体現した妖怪といえます。


